JSPS男女共同参画推進アドバイザーからのメッセージ
山本裕子先生

北陸先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 マテリアルサイエンス系 准教授
山本裕子
 先生

【研究内容】
ラマン分光学・表面増強ラマン分光学

【研究概要】
超微量・非破壊・その場(in situ)分析が可能な表面増強ラマン分光法を用いて新しい物理・化学・バイオを探求する

【趣味・特技等】
イラスト、速読

【好きな言葉】
”Religion is a culture of faith; science is a culture of doubt.”(Richard P. Feynman)

好きなことを仕事にするのがベスト

 私は研究を始めてから今年でおよそ20年になりますが、20年前の私を知る人はきっと、まさか私が大学で准教授になっているなんて想像できないと思います。当時の私は人一倍科学に憧れが強く、しかし一方で、本当に何のスキルもありませんでした。実験をやらせてみれば失敗ばかり、繰り返し何かをするのも苦手なくせに文句や口答えだけは一丁前、いろんな研究室をハシゴしながら毎晩お酒を飲み歩いては遊びに興じ、そのくせ発表だけは大好きで、どんな研究会にもとりあえず顔だけは出す。大学と研究所を行ったり来たりの毎日の中で、研究室には確かに「サイエンス」と呼ばれる何かがあり、その何かが私は大好きで大好きでたまりませんでした。でも私には、「サイエンス」が好きというそれ以外には、本当に何の取り柄もなかった。

2016年 留学先ドイツの列車にて

 修士を出て、曲がりなりにも一般企業で常勤研究職に就いて半年ほど経ったころ、私は、来るべき道を完全に間違えたと感じました。一生安泰な生活の中で、科学技術を請われて駆使する生活はきっと恵まれていたはずなのに、そこに私の考える「サイエンス」は無かったのです。博士号が欲しくなり、企業の職を辞して博士課程学生に入り直しました。本当に研究能力が無かったので博士課程には合計2回入り、そのうちの1回で、4.5年かかりましたが、なんとか念願の博士号を取得できました。しかし研究をするだけではつまらなかったので、結婚も出産も留学も離婚もしました。現在は、准教授の仕事を行うために、子供3人を一人で育てつつ実家から遠く離れた純和風の家で暮らしています。

 こんな私のことを、たくさん苦労してきたんですね、と評する方がいます。しかし当の本人はあまりそのようには感じていません。私はとにかく「サイエンス」と呼ばれる何かが好きなので、それが仕事になって本当に嬉しいし、それ以外の楽しみもただ同時に実行しているだけなのです。ところでサイエンスとは何でしょう。私の考えるサイエンスとは、自由な意志に基づき、実験データや観察結果からある種の普遍的法則を見出して世の中に論文という形で還元する、全ての知的活動のことです。私はこの中でも特に、自由意志に基づくという点と、普遍的法則を見出して世の中に論文という形で還元するという2点を重視しています。科学者の存在意義がここにあると考えるからです。
 だからこそ、サイエンスが好きな、全ての後進たちへ。結局は、好きなことを仕事にするのがベストです。たとえ初めは下手でも、20年も続けていればそれなりにうまくなるから、好きならまずは続けてみることをお勧めします。私の場合、初め全くうまくいかなかったし、迷惑も散々かけたし、周りは私よりも明らかに才能のある人たちばかりでした、今だってそうです。辛いこともあります。それでも好きなことを仕事にできて私は本当に幸せですから、もっと人生に欲張ってみるとさらに楽しいと思いますし、サイエンスが好きなあなたにもきっとそのパワーがあると思います。


2019年、弊学大学院の説明会担当として、当時1歳の末っ子を背負いながら高専に。

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