東北大学工学研究科DEI公募を実施して
湯上 浩雄 先生(東北大学 理事・副学長)

湯上 浩雄
東北大学 理事・副学長
2025年3月工学研究科・教授を定年退職(元工学研究科長)

理工系学部、特に工学系部局における女性研究者の割合は、徐々に増加していますが、まだまだ低い状況です。私が所属しています東北大学においても、理学、工学や一部の付置研究所での女性研究者割合は低い傾向が顕著です。学科レベルで男女共同参画の議論を行うと、「鶏(女性研究者)が先か卵(女子学生)が先か」の議論から、結局は「総論賛成、各論反対」となる典型事例となってしまっていました。特に大学の運営に関しては教授が圧倒的な権限を有しており、専門分野の人事を発議・審査する学科・専攻レベルでの教授の意識が重要です。このような背景から、私が工学研究科長であった2022年度に実施した「DEI公募」について部局長としての立場から見た個人的な感想をお話しします。

東北大学工学研究科・工学部では、5つの「系(学科単位に対応)」ごとにグループ化されており、それらが各種活動の母体となっています。人事については、より細かいグルーピングがあるのですが、まずはこの5つの系(学科)に最低限1名の女性教授が在籍する環境を作るところから、という考えでした。トップダウンで女性研究者を採用していくことは有効ですが、教授を採用する際には十分に現場レベルの教員(特に教授)の理解を得ることが重要です。この視点は、採用された女性研究者が、現場レベルの組織にしっかりと組み込まれ活躍できる環境を実現するために必須です。このことから、各学科レベルの教授会に説明を行うと共に、DEI公募への参加については各グループの意向を尊重しました。その結果として5系のうち4系がDEI公募に賛同してくれました。DEI公募(女性限定公募)、特に教授レベルの採用に際しては、既存組織との意識合わせをどのように行っていくかは、まだまだ改善が必要と感じています。

女性教授を一挙に5名採用するという取り組みは、色々な面で注目されることが想定されたことから、総長とも相談しつつ、公募のタイミングや内容について決定していきました。その際に「女性限定公募」ではなく「DEI公募」とすることを決めました。この意図は、「SEXとしての女性」ではなく「Genderとしての女性」研究者をより明確にしていきたいからでした。実際に応募いただいた研究者の中には「SEXとして男性」であるが「自分は女性である」と申告されて応募された方が複数おられました。この場合も、他の応募者と同様に研究分野や研究実績を慎重に審査しました。今回の場合は、面接審査の対象とはなりませんでしたが、もし最終判断をする必要が出てきた際には、その方のGenderに関する意識を確認するにはどうしたら良いのかという悩みは持っています。

DEI公募が出された後、Yahooニュースで3000件以上のコメントが付きました。東北大学のニュースで、そこまで注目される話題は少ないので大変驚きました。若手の男性研究者の「心が折れる」という投稿もあり、コメントの多くは批判的なものであったと記憶しています。批判的な反応があることは想定の範囲内でしたが、多くの方(研究者以外が多いと思いますが)において「affirmative action」に関する理解が進んでいないことを実感しました。工学研究科では120名余りの教授が常時在籍している規模の部局で、工学部設立以来100年以上経過しても、女性教授は延べ人数で5名以下という状況でした。この状況が望ましい(仕方ない)ものであるとは決して言えません。公募要項の記載内容を含めて、DEIの取り組みの背景や必然性について、より積極的に発信する必要性を強く感じました。

2022年のDEI公募では、4名の女性教授を採用でき、それぞれの分野で活躍していただいています。2025年には第2回のDEI公募が始まり2名の教授(准教授)の採用が進められています。工学研究科では、教授選考委員会のメンバーは必ず、故大坪久子先生が本学でご講演された際に収録した「無意識のバイアス」のビデオを視聴(視聴日を申告)することを義務化しています。以前のNHKスペシャルで放送されましたが、現場の(男性)教授の意識が少しずつ変化してきていることを感じています。工学研究科全体で見ると、女性教授はまだまだ少数ですが、DEI公募や女子高校生との交流をはじめとする各種の男女共同参画に取り組みを通じて、少しずつ「鶏も卵も」増えていくことを期待しています。

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