声を上げられる立場にいる者として

アムステルダム大学 物理学研究所 准教授
安藤 真一郎 先生

【研究内容】
理論宇宙物理学

【研究概要】
ダークマターの正体と宇宙の構造形成を理論的に研究しています。ガンマ線やニュートリノなどの高エネルギー宇宙観測、大規模サーベイデータなどを組み合わせ、小さなスケールでのダークマターの性質に迫ることを目指しています。

 今年度からJSPS男女共同参画推進アドバイザーを拝命しました。CHEERS! にはこれまで、夫婦で研究者として海外で子育てをしてきた経験と、アカデミアにおける男女共同参画がなぜ進まないのかについての考えを寄稿してきました。今回は所信表明として、なぜこの役割をお引き受けしたのかを書いてみたいと思います。

 女性限定公募については以前の記事でも触れましたが、その後も議論は続いており、最近では大学入試の「女子枠」をめぐっても様々な意見が交わされています。制度である以上、その設計や運用に賛否があるのは当然で、率直な議論はむしろ制度をより良くするために欠かせないものだと思います。

 私が問題だと感じているのは議論そのものではありません。批判の矛先が、制度ではなく、その制度を通じて採用・入学した個人や特定の属性に向かってしまうことです。「女子枠だから」という一言で本人の努力や実力が疑われる。SNSでは、ときに攻撃的な言葉が特定の集団に向けられる。しかし、制度を設計したのは当事者ではありません。不満があるのであれば、それは制度を作った側に向けられるべきですし、対立ではなく、制度をどう変えるかという建設的な提言につなげるべきだと考えています。

 男女共同参画が正義や公正さの観点から重要であることは言うまでもありません。そのうえで私自身は、合理的な観点からも実現すべきものだと考えています。研究の才能は性別とは関係なく分布しています。実際、これまで講義や研究指導で接してきた学生を振り返っても、特に優れた学生の男女比はおおむね半々という実感があります。その才能が、性別に起因する障壁によって研究の世界から失われていくのであれば、それは研究コミュニティ全体、ひいては社会全体にとっての損失です。少しでもその損失を減らす一助になればという思いで、今回のお話をお引き受けしました。

 一方で、この役割が批判にさらされうることも自覚しています。私は以前の記事で、男女共同参画が進まない大きな原因は、マジョリティである男性側がこの問題に向き合ってこなかったことにあると書きました。これは私自身を含む男性研究者に向けた批判にほかならず、一部からの反発を招くことは避けられないでしょうし、実際に批判を受ければ、心穏やかではいられないと思います。

 それでも引き受けようと思ったのは、この役割を担える人が実はそれほど多くないことに気がついたからです。この問題に最も深い問題意識を持っているのは、言うまでもなく女性研究者自身です。しかし当事者であるほど、声を上げることには勇気と代償が伴います。誤解を招く反応や過激な意見の矢面に立つ可能性があるからです。さらに、女性であるという理由だけで男女共同参画に関わる委員や役割を割り当てられ、本人が望むと望まざるとに関わらず批判にさらされる、という話も少なくありません。

 振り返ってみると、私は、男性であること、この問題意識を共有していること(妻も研究者で、彼女が直面してきた困難を長年間近で見てきました)、ある程度シニアな立場にあること、そして日本国外の大学に所属しているため、発言によって人事や評価の面で直接的な不利益を被りにくいこと、という条件をたまたま満たしています。これらをすべて満たす人は多くありません。だとすれば、批判を受けても大きく傷つくことのない立場にいる者こそ、語る責任があるのではないかと考えるようになりました。

 海外に身を置いていることに触れましたが、海外の事例を持ち上げたいわけではありません。制度面で日本より進んでいる点が多いのは確かですが、ヨーロッパにもジェンダーをめぐる課題は依然として数多くあります。加えて、私自身はヨーロッパではアジア人というマイノリティであり、人種という点では不利益を被りうる立場にあります。男性としてはマジョリティ、アジア人としてはマイノリティという両方の立場を日々経験していることが、この問題を考える私の原点の一つです。日本の研究コミュニティで育てていただいた一人として、その経験を少しでも還元できればと思っています。

 以前、別の場で同じような話をした際、あるシニアの女性研究者の方が「まさかこんな話を男性研究者から聞く時代が来るとは思わなかった」とおっしゃったことがあります。その言葉は今も心に残っています。男性と女性が対立するのではなく、ともに制度や文化をより良くしていくための対話の橋渡しができればと思います。アドバイザーとして、その役割を少しずつでも果たしていきたいと考えています。