北欧と私

渥美 裕子(ノルウェー・オスロ大学化学科 ヒレラスセンター研究員)

2021年現在、世界での取り組みSDGs、コロナ、そして多様性。それらの諸問題への取り組みはいずれの分野も、人が力を合わせること、そして欧州では啓蒙思想を持って対応しようとしているように思います。私は北欧で居住を持ち、過去に西欧東欧南欧に滞在して研究を行ってきました。

フランスのボスに結婚報告をしたとき、相手はどこの国の人?と聞かれ、北欧の人だと答えました。すると「よし!仕事をしっかり続けられるわね!」とこれからの幸せへの後押しをしてくださったことが忘れられません。フランスのボスによれば、40年前スウェーデンに学会へ行ったときにお父さん先生がベビーカーを押していたそうです。当時ヨーロッパでもそれは珍しく北欧女性の社会進出政策と、社会の容認を強く感じたとおっしゃっていました。

欧州で仕事をしたときには各国の文化の色の強さが顕著に現れます。北欧で仕事をすることで北欧人の文化やその考え方、研究の運び方を学びました。日本人同様にシャイですが、そのシャイを出す所が日本と違うのでそれも文化の違いを学ぶ一つになりました。そういう各国の文化に沿った心の機微を知るとその後は一緒に仕事しやすくなったように思います。

そして妊娠したときには、複数の先輩の欧州女性研究者から「妊娠がわかったらすぐに上司にいいなさい」と言われました。日本では安定期まで公表を控えることもありますが、「化学科ではさまざまな薬品を使うから何が影響するかわからない。すぐにいわないといけない。」と皆習ったそうです。そして具合が悪いときは「自分の中の声を聞くのよ。」と言われました。正直に、具合が悪いと言うと、周りからそして上司も予定を変更して帰宅前の私の用事に時間を割いてくれました。

また子供が大学病院で生まれたときラボでは祝杯をあげたらしく、上司がお祝いに来てくれました。

ノルウェーはじめ北欧では子育てに優先的なことが多くあります。ノルウェーでは夫婦で給料保証付き44週間の育児休暇を取ることが出来ます。子供が生まれてからは1年目から保育園に預けることが出来ます。保育園がこちらではまるで日本のコンビニエンスストアのようにあちこちにあります。働き盛りの女性と男性にはありがたいことだと思いました。

また子供が生まれても保護者会でお母さんお父さん友達からは「○○ちゃんのお母さん」と呼ばれることはなく、誰しもが私の下の名前を呼びます。子供の友達ですらそうです。お母さん友達にいわれました。「あなたはあなたの人生なのだから、いつでも互いに自分の名前で呼び合うものなのよ」と。そうなると誰かに属するのではなく、私の人生は私自身が全面に立ってその人生の中に子供や家族があるという感覚になりました。

仕事では時間をもっと取りたい、一人でゆっくり考える時間がほしいと思うことが今もありますが、自分自身がお母さんになったことで、働き方のtransitionが必要なのだなと思い、どうすればいいか、分野問わず女性研究者の集まりに参加したり、業種によらず先輩お母さんに話を聞いたり、ネットで調べたりしていました。北欧では性別に関わらずリタイヤするまでお仕事をされる方が多いので子供の祖父母も働いていますから頼りにすることが出来ません。そこで夫婦二人で時間をやりくりして研究室にいられる時間を増やすようにしました。日本へ出張したときも、日本の大学の先生方のご理解があり、夫婦で朝6時から昼12時は私が仕事で夫は子供の面倒を見る、お昼ごはんを家族で食べて、午後は逆のパターンなど。また私が知っている北欧人夫婦は、夕飯は全てレストラン、という方も。夫婦で研究室に長くいたいので、お手伝いさんを雇う人もたくさんいます。

手をかけてくれた食事がおいしい、それもいいと思います。パートナーに笑顔でいてもらうのが一番嬉しい、それもいいと思います。解法は一律一体ではなく個々で異なるもの。自分らしくていいのです。私の場合は人一人の「力」にはやはり限界があるのでどこかでアウトソーシングをしたり自分を楽にすることが必要なのかなと思い、こうして今も日々家族の健康を願って仕事では周りの方に十分に状況を説明して出来る限りの仕事を精一杯しています。

でもこのように女性の人生や体調を考慮しながら自分自身の仕事を背負っていけるのも、今までに世界中の女性の先輩方が道を開いてくださり、男性の同僚、上司も、理解してくれる方々が増えたからではないかと思います。

日本と欧州のそれぞれの良い所を次世代の女性男性につないでいくことで新しい豊かな社会になることを願い、今日も頑張ります。


大学の新学期。Fadderと呼ばれる在校生が赤いTシャツを着て新入生とイベント。誰でも出来ることをイベントにしてお互いが知り合えるように、大学生活を楽しく始められるように。北欧の大学の使命の一つに将来の伴侶を見つける、というのもあるそう。


ノルウェーと言えばサーモン。サーモンサンドがおいしいです。この雑穀パンも北欧らしさがあります。


日本とノルウェーの学術交流。