児童書棚に垣間見える理想とする社会のありよう
美馬のゆり(米国カリフォルニア大学バークレー校 元客員研究員)
2021年9月から約1年間、UC Berkeley Center for Human-Compatible AIに滞在していました。その間いくつか書店を訪れ、児童書のラインナップが日本と大きく異なるということに気づきました。
米国の書店には、「Early Concept」という乳幼児向けの本棚がありました。動物や数字、文字に関する絵本が並んでいます。そのなかに『はじめての100語』シリーズを発見。テーマは、科学、技術、工学、数学、芸術のほか、熱力学、ベイズ統計学、量子コンピュータまであります。『赤ちゃんの好きな政治学:正義』『赤ちゃんのための気候変動』というものも。
このほか、バークレー地域の書店やオンラインの書店を見ると、児童書コーナーに『先駆者:ガールパワー入門』『Girls Can!』『歴史を作った女性100人』『Good Night stories for Rebel Girls(邦訳:世界を変えた100人の女の子の物語)』といった本が並んでいます。ヒスパニック系で初めての米連邦最高裁判事になった女性、バスで黒人と白人の座席が分かれているという不公平な法律を変えることに貢献した女性、ノーベル平和賞受賞者のマララ・ユスフザイさんや環境活動家グレタ・トゥンベリさんなど、最近の若者が主人公の絵本もあります。
こういった本がそろっているのは、バークレーがシリコンバレーに近いことや、歴史的にも、言論の自由やLGBTQ+などの権利を認める運動が起こり、社会変革を実現していく風土、歴史、価値観があるのかもしれません。
帰国してから最近の日本の書店ではどうなっているかを調べてみました。学習まんがが多いことにびっくり。棚一つ分ありました。伝記シリーズの人物は昔と変わらず、世界や日本の偉人、戦国武将などです。新しいところでは、お札の肖像になった人、発明家として米アップルの創業者スティーブ・ジョブスがいます。伝記で取り上げられている女性はあいかわらず、キュリー夫人、ナイチンゲール、ヘレン・ケラー。「夫人」とついていたり、人助けをしたり、障がいがありながらも頑張ったりした人たちで、私が小学生だった、数十年前とほとんど変わっていませんでした。
お子さんがいる方はもちろん、いらっしゃらない方も、海外滞在中にぜひ書店の児童書コーナーを訪れてみてください。その社会が子どもにどう育って欲しいか、読者である子どもたちが大人になる、数十年後の理想とする社会のありようを垣間見ることができるでしょう。
2022年11月現在の所属
公立はこだて未来大学 教授