フランス・ストラスブールに計15年間住んで
個人的に思うこと
田島(後藤) 彰(ストラスブール大学・細胞生物学研究所(IBMC) 主任研究員)
日本から来る人たちから言われます。「フランスで研究職のパーマネントポジションを取られて、奥様もこちらで外資系企業に勤められていて、二人の娘さんたちもこちらで生まれて、日本語、英語、フランス語のトリリンガルで素晴らしいですね!羨ましい限りです!」事実、その通りです。私は研究者として能力が高く、妻も優秀で、娘たちもいい教育環境の中で育てるようにしているので、このような生活ができています!と言ってしまっては、このコラムが終わりになってしまうので、私たちが現在、どのような環境で生活を送ることができているのか、またストラスブールに計15年ほど生活をしてきて、日本とフランスの違いなどについて個人的な感想を今回書かせていただきたいと思います。
仕事について:
フランス(と言っては語弊があるので、私が知っているラボに限定)は、どれだけ長時間多くの仕事量をこなしたかより、むしろどれだけ独創的な研究をして質の高い論文を書き、グラントを取ってきたか、また学生やテクニシャンを今まで何人育成してきたかなど、より目に見えやすい部分で評価されます。また自分の職業身分による仕事の分業化がより明確にされています。例えば、研究者がオートクレーブを使って実験器具を滅菌しようとしたり、試薬を業者に直接注文したり(これは資格を持っているテクニシャンと事務方の仕事)、プロジェクトに対する実験方針を学生に指示したり(これはグループリーダーの了解を得て一緒にする仕事)すると、問題が発生する場合があります。日本の場合も上記と同様な部分も多くありますが、それらだけでないところもあります。例えばそこまで目に見える実績が出ていない場合でも、毎日一生懸命働いて、ラボのために滅私奉公している場合には、これらの頑張りも評価点として加味され、昇進などに繋がる可能性もあると思います。古い考え方のようでもありますが、これもまた日本の文化であると私は思います。このようなきめ細やかな気配りと仕事第一主義の丁寧な仕事のお陰で、日本独特のレベルの高い研究(日本人のデータは綺麗と言われる所以)ができているのではないかと思います。フランスでも、もちろんみんなのために尽くすということは重要視されていますが、上記でも記載したように自分のポジションに合った貢献でないと仕事面では評価されない場合が多いです。
生活について:
2024年現在は、円安のために一概には言えなくなってしまいましたが、フランスの給料は高くはないです。しかし給料の約半分は様々な税金や保険などの支払いに充てられているので、社会保障は手厚いです。基本的に、公立学校の授業料や医療費は無料ですし(しかし保険適応外になると一気に高額になるので注意)、申請をすれば、子供手当、学生の住居手当などのサポートも受けられます。また最近ストラスブール市は、駐車料金と罰金を大幅に上げる代わりに、公共バスとトラムの料金を17歳まで無料にしたので、子供たちの市内移動の交通費もかかりません(CO2削減政策)。食費に関しても、外食は高いので毎日は行けませんが、スーパーや市場で食材を買って自炊をすればやっていけます。その他、フランスはバカンスを大事にしている人が多いので、いかにしてこのような給料からバカンス費用を捻出して、楽しい休暇ができないか、かなり前から調べているので、色々と場所や行き方についてお得な情報をたくさん知っています。
子育てと学校について:
これまで多くのご家族連れの海外研究者が書かれているように、ここストラスブールでも子育ては、父親も母親も同等に時間を割いているケースが多いです。子どもたちの学校の送り迎え、それに伴う家事の分担なども両親が交互でやっています。私たち夫婦の場合ですと、買い物や料理は私、フランス語の事務書類作業や集会関係、家の掃除などは妻、習い事や学校の送り迎えは交互で時間がある方が担当するという具合です。あと私としては驚き、しかしこちらでは当たり前なのは、たとえ両親が離婚している場合でも、今週は父親、来週は母親というように送り迎えや子供と過ごす時間も交互でやっている場合がほとんどです(フランスの2020年の離婚率は55%)。ただこちらで悩ましいのは、公立学校の先生や給食作りの人達によるストライキです。多い時は毎週あります。さらにこのストの連絡は1週間前ぐらいからされることもあるのですが、通常は2〜3日前です。前日に連絡が来ることもあるため、親がバタバタして、休みを取ったり、知り合いの親にお昼ご飯も食べさせてもらうようにお願いしたり、対応が大変です。また、日本のように授業参観、入学式、卒業式、運動会などの学校イベントがありません。9月に始まる新学期の初日は、校門前にクラス分けの紙が張り出されており、そのまま学校が始まります。親に対する担任の先生からの事務的な説明会は1週間後ぐらいにあるのですが、子供の成長を見られるような行事がないので、味気ない感じがします。現在、子供たちはアルザス補習授業校に毎週土曜日に通っており、そこでは上記のような日本の文化を感じられるような様々なイベントを催していただいています。準備をされる学校関係者や担当の親たちはとても大変だと思いますが、このようなイベントに出席させていただくと、日本の文化はやっぱり素晴らしいなぁとしみじみ感じます。
その他、言葉の壁や文化の違いから数多くの失敗もしていますが、逆にこれらの経験を通じて、自分たちのアイデンティティー(日本人ってどんな人種だろう?)について考えさせられるようになりました。おそらく日本で生活していたら考えられないような出来事が起こることも多く、友人に相談しても考え方のギャップが大きすぎて、よく理解できないこともあります。今のところ、「人と人は違う、でも違ってもいい。この違いは国が違えば大きくはなるが、一緒に仕事や生活をしていく上で、これらの違いが原因で問題が起こった場合には、その違いを分かるまで話し合って、解決の方法を探せばいいだけ」との結論に至っています。書いてみるとごく当たり前なのですが、海外に来て自分は初めてこの「人と違っても問題ない」ということを再認識させられました。
現在、海外での留学生活には興味はあるけれども、言葉や生活、および安全面のことなどで不安を抱えている方もいらっしゃると思います。またそれがご家族と一緒となるとその不安はさらに大きいものとなると思います。今回、このレポートを読んでいただき、少しでもフランス生活のイメージがつき、挑戦してみようかなあと思っていただければ嬉しいです。新しいたくさんの発見があって、人間としての幅も広がり、楽しいですよ!
上記に書いたことは私の私見に基づくものとしてご了承いただければと思います。末筆ではございますが、最後まで読んでいただきありがとうございました。
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