「自分らしいキャリア」を求めて

寺崎 梓(スタンフォード大学、日本学術振興会 海外特別研究員)


 こんにちは。海外特別研究員としてスタンフォード大学でポスドクをしている寺崎梓です。カリフォルニアの明るい陽射しのもと、研究と育児、そしてコミュニティ活動に追われる日々を送っています。

 さて、「キャリアウーマン」と聞いて、皆さんはどんな女性を思い浮かべますか? かつての私は、すべてを犠牲にして仕事一筋に生きる人を想像していました。結婚や出産とは無縁で、例え家庭を持っても、家族や周囲に支えられながら仕事に全力を注ぐ姿。けれど、それが自分の理想かと問われれば、答えは「NO」でした。

外科医としての葛藤と出会い

 初めて「自分らしいキャリア」について真剣に考えたのは、2015年、第一子を出産して産休をとっていたときのことです。当時は消化器外科医として働いていましたが、女性医師のロールモデルは少なく、患者さんからも男性医師が好まれる時代。そんな中で、乳がんの患者さんと向き合うときだけは「女性医師として求められている」と感じました。子育てや家庭と闘病を両立する患者さんの姿に、自分を重ね、「力になりたい」と強く思いました。

研究の世界へ、そして海外へ

 乳腺・甲状腺外科を専門に選び、臨床の中で女性医師の活躍の場を見いだしました。 しかし「アカデミアで海外留学を経験した女性医師」の姿はほとんど見えず、それが私の次の挑戦となりました。

 第二子の出産後に大学院へ進学し、基礎研究を始めたことで、研究の奥深さに惹かれ、乳がんのトランスレーショナル研究を本格的に学びたいと考えるようになりました。臨床と研究を両立するのは容易ではなく、時間も労力も想像以上でしたが、思い切って研究に専念する道を選び、海外の研究室を探しました。 自ら複数の研究室にメールを送り、情熱だけを携えて出会ったのが、現在のスタンフォードのPIです。受け入れていただけたときの喜びは今でも忘れられません。

家族とともに築く新しい日々

 そして何より、この挑戦を迷わず応援し、共にアメリカに来てくれた家族に心から感謝しています。2022年からスタンフォード大学で、がんや炎症性疾患に関する免疫の研究をしながら、夫と三人の子どもを育てています。

 研究・家庭・社会活動の両立は簡単ではありませんが、夫婦で支え合い、役割を自然に分担できているからこそ、子どもと向き合う時間を持てています。生活は決して豊かではありませんが、心は以前よりずっと満たされています。

研究と社会をつなぐ活動へ

 現在はStanford SURPAS Family CommitteeのCo-chairとしてポスドク家庭支援に取り組むほか、JWIBA(Japanese Women’s Initiative in the Bay Area)の役員として、ベイエリアで暮らす日本人女性が互いに励まし合える場づくりにも携わっています。「自分らしいキャリアとは何か」を考えながら、研究・家族・社会をつなぐ活動を続けています。

Uniqueであることを誇りに

 世界には優秀な外科医も研究者もたくさんいます。けれど、「私だからこそできる研究」「私だから築ける幸せ」があります。かつては周囲からUnusual(風変わり)に見られることを気にしていましたが、今ではそれをUnique(自分らしさ)として受け止められるようになりました。

 誰もが「迷いながらも挑戦できる自分」でいられるように。このメッセージが、私と同じように迷いながら進む誰かの励ましになれば嬉しいです。