研究とライフイベントの両立に関する研究者へのインタビュー
(RPD経験者の声)

千葉工業大学惑星探査研究センター 主席研究員 荒井 朋子

【PROFILE】

  • 1998年3月 東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。博士(理学)。
  • 1998年4月~2004年9月 宇宙開発事業団(宇宙航空研究開発機構 (JAXA)) 開発部員
  • 2004年12月~2008年12月 国立極地研究所(2007年1月から2008年12月まで特別研究員-RPD)
  • 2009年1月~3月 東京大学総合研究博物館 特任研究員
  • 2009年4月から現職。
  • 科研費(挑戦的萌芽研究)等により国際宇宙ステーションからの流星観測や月試料分析等の研究を行っている。また、2024年度に打ち上げが予定されている、ふたご座流星群の塵を地球にもたらしている小惑星フェートンの探査計画DESTINY+の主任研究者を務める。

興味があること、好きなことにチャレンジし続ける

千葉工業大学惑星探査研究センター主席研究員の荒井朋子先生はRPD制度の1期生。「JAXAを退職し、千葉工業大学に勤務するまでの4年半のうち2年間、RPD制度にお世話になりました。研究職を続けられたのはRPD制度があったからです」と感謝する。興味があること・好きなことにチャレンジし続けることで、道を切り開いてきた「挑戦の人生」に学ぶことは多い。

取り組んでいる研究

――現在、千葉工業大学惑星探査研究センターが取り組んでいるプロジェクトについて教えてください。

2016年(平成28年)から国際宇宙ステーション(ISS)に超高感度CMOSカラーハイビジョンカメラを設置し、地表へ落下する流星の長期連続観測を行う「メテオ」プロジェクトを進めています。

「メテオ」は流星の意味で、流星観測を行うカメラの名前です。ISSの米国実験棟「デスティニー」内の地球側に向いている観測用窓の前に設置しました。ハイビジョンカメラはNHK番組『宇宙の渚』で使用されたカメラを改良したものです。

JAXA(宇宙航空研究開発機構)に勤務していた際、国際宇宙ステーションの実験棟と実験装置を開発するチームに所属していたので、そのときに得た知識や経験を活用しました。宇宙から流星を長期連続観測する世界初の試みで、米国実験棟で主体的に科学観測を行う日本初のプロジェクトでもあります。

宇宙からの流星観測で得られたデータ・知見をもとに地球に塵として飛来する地球外物質やそれらを供給する天体を理解し、地球生命や環境に地球外物質がどのように関わっているのかの解明を目指して研究を進めています。研究成果を踏まえて、探査計画の提案や探査機に搭載する科学機器の開発も行っています。

研究者を目指したきっかけと研究生活について

――研究者を目指された、きっかけはなんですか。

ルーツは小学生時代にさかのぼりますが(笑)、直接的には大学(東京大学)の理学部地学科で隕石が太陽系の歴史を解明する貴重な手がかりだということを実感し、「直接見て、ふれることができる石から他の天体について知りたい」と思ったのがきっかけでした。当時、隕石研究の世界的な権威だった武田弘先生の研究室に所属。そこでアポロの「月の石」や「隕石」に出合い、大学院博士課程まで研究を続けました。大学院時代には、NASAジョンソンスペースセンターに留学し、1960〜70年代の「アポロ計画」で宇宙飛行士が地球に持ち帰った月の石の分析に取り組みました。

――大学院修了後はJAXAに入られましたね。

JAXAには約7年間、勤めました。国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」を、NASAのスペースシャトルで打ち上げる代替として米国の生命科学実験棟と実験装置を開発する「セントリフュージプロジェクト」に配属され、宇宙ステーションの開発に携わりました。プロジェクトでNASAと共同で開発を行った知見や経験は後にメテオプロジェクトで大いに役立ちました。

2012〜13年に米国の南極隕石探査に応募し、念願だった南極での隕石探査に参加することができました。これまで未探査の地域を探査する偵察チームとして参加しました。「隕石を自分の手で拾える」という感動と興奮の中で、スノーモービルで南極を駆け回りました。

JAXAでは月周回衛星「かぐや」による月探査プロジェクトにも従事しましたが、妊娠・出産で体調を崩し、「かぐや」の打ち上げ前にJAXAを退職しました。

RPDを経験して

――先生の精力的・意欲的な行動力があったからこそ、次々に道が開けていったと思います。最後にRPDでのご経験も踏まえ、若い研究者へのメッセージをお願いします。

RPDには本当にお世話になりました。JAXAを退職し、千葉工大に着任するまでの期間、研究職を続けることができたのはRPD制度があったからこそでした。

若い研究者にはPDやRPDなどを大いに利用して「あきらめずに頑張って」「興味があること、好きなことに積極的にチャレンジし、続けてください」と申し上げたいと思います。私も「流星群の塵を地球にもたらしている天体を探査機で調べたい」という夢の実現に向けてチャレンジしているところです。

(※本記事は「特別研究員-RPD制度」10年史(平成30年7月独立行政法人日本学術振興会発行)の記事を再構成したものです)

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