JSPS男女共同参画推進アドバイザーからのメッセージ
平田 典子先生
日本大学 理工学部 特任教授
平田典子 先生
【研究内容】 数学
【研究概要】 整数論・ディオファントス近似
【趣味・特技等】 食べること
無意識のバイアスについて
私は数学の中でもディオファントス問題という整数論の分野を専門にしています。日本ではあまり馴染みのない分野なのですが、面白いと思って勉強をはじめました。そのうち独学では限界があることを悟り、フランス政府給費生の試験を受けて、外国で勉強し学位を取る機会を得ました。貧乏暮しでしたが、限りない自由さと多くの時間のもとにて思い切り勉強できたことが、何よりの幸せでした。数学は科学の中でも時間がかかる分野ですが、一人であれこれ考えたり、また仲間と議論しながら共同研究したりするのは、本当に楽しいものです。私のかつての同級生は、いまヨーロッパの男女参画運動のトップを務める数学者になっており、必要があって連絡を取り合ったときに、偶然、昔の旧友であることが判明し、お互いにびっくりしました。彼女はいま女性数学者のポートレート写真を撮影して出版するプロジェクトを進めています。その写真を見ると、気取らない表情でみんなニコニコしています。 しかしながら最近では状況が変わり、昔のようにのびやかな状態で勉強するのが、残念なことに難しくなってしまいました。その一つに若い研究者の職位の多くが任期付きになってしまったことがあります。またどんなに頑張っていても、時間が限られるせいでチャレンジングなことを始めにくくなり、評価の偏りも起きやすくなるように感じています。とくに女子学生に対しては、女子は数学が苦手であるという偏見も未だに多々あるようです。 このような偏見を英語ではバイアスと呼びます。そしてその偏見が理由で、障壁ができてしまいます。この障壁を英語でバリアと言います。我が国では女性研究者、特に理系の女性研究者が、この障壁の前で伸び悩む状態が散見されます。外国と比較すると日本の女性研究者の現状は惨憺たるものであり、私個人が男女共同参画に関心を持ちましたのも、他国と我が国との女性研究者の差が大きいことに驚いたということが、発端になっています。無意識のうちに持ってしまう偏見に関しては、無意識のバイアスというキーワードで取り上げられる機会が増えました。無意識のバイアスは、東京大学・日本大学の元教員でおられた遺伝学の研究者の大坪久子先生が日本に紹介されたものであり、無意識のバイアスの学習用のe-learningシステムを大学の人事に活用して、公平な人事を目指そうとする先進的な大学も現れております。 我が国の女子学生が、偏見にさらされずに科学に夢中になることができて、障壁なしに勉強を続けられれば、日本全体の総合研究力は大いに上がろうかと思われます。この無意識のバイアスに関するお話を、JSPSの研究者の声のページにご執筆くださるよう、大坪久子先生ご自身にお願いいたしました。大坪久子先生のお手になる文章を皆さんにぜひとも広くお読みただいければと思います。 (社)男女共同参画学協会連絡会 名誉会員 大坪 久子・特別寄稿“Beyond the Bias and Barriers”