JSPS男女共同参画推進アドバイザーからのメッセージ
佐野 幸恵先生

筑波大学 システム情報系 社会工学域 准教授
佐野 幸恵
 先生

【研究内容】
社会経済物理、ネットワーク科学、計算社会科学

【研究概要】
SNSにおける情報拡散、学術界の引用関係などネットワーク全般に関する研究

【一言】
最近、息子(6歳)とセントレアでDreamlifter(航空機を運ぶ大型航空機)の実物を見て感動しました。

翼を広げて飛び立とう

 私の妹は航空機のエンジニアをしています。アメリカ出張へ行ったり、実家にブラジル人の同僚エンジニアを連れてきたりと、忙しくも充実した生活を送っているようです。そんな彼女は、小さな頃からロケットや飛行機が好きでした。さらに、手先が器用なこともあり、小学生の頃からアポロ月面計画のプラモデルを組み立てたりしていました。

 昨年末、久しぶりに家族が集まって話をしていた際、母が妹の高校の進路面談にて、以下のようなやり取りがあったことを話してくれました。

担任「じゃあ、どこの医学部にしますか?」
母「え?航空工学がやりたいそうなので、九州か名古屋の工学部を希望しています」
担任「え?工学部って本気ですか??」
母「はい、工学部です」

 妹は、理系クラスに所属していて、成績も良かったそうです。当時、理系の成績のいい女子=医学部、という思い込みが担任の先生にあったようでした。母は、妹は工学部希望であって、医学部には興味がない旨、力強く担任の先生に伝えたそうです。

 でも少し立ち戻って考えると、そこでもし、担任の先生のコメントを受けて、母が妹に医学部に行くようにアドバイスしていたら、妹の人生はどうなっていたのでしょうか。「妹」ではなく「弟」だったらこのようなやり取りは存在したのでしょうか。担任の先生も、女性が仕事を安定して続けられる、という親切心から医学部を勧めてきたのだろうと思います。誰も妹の邪魔をしようとしたわけではなく、「良かれと思って」進路を提案してきてくれていました。もうずいぶんと昔の話にも関わらず、私はモヤモヤせずにはいられませんでした。

 最近になっても、私が女子中高生と交流すると「親が薬学部を勧めてくる」「先生が医学部を勧めてくる」という話を耳にします。本当はコンピュータや物理、ロボットに興味があるのに。彼女らは家族や周囲との関係も良好そうでした。その結果、なんとなく言い出せなかったり、周囲と違って変だ、と言われることを恐れていたりしているようでした。

 理系の魅力を発信し、理系に興味を持つ人を新たに増やす取り組みも大事だと思います。ただ、それ以前の問題として、本当にやりたい・興味のある分野や仕事があったけれど、周囲の影響によって取りこぼれてしまった、そういう子どもを一人でも無くすことも重要です。周囲の大人は、ただ子どものやりたいことを理解し、その翼を折らないように考えるだけで十分なのではないかと思います。そういった取りこぼしを一つ一つ無くす視点は、女子、理系といった枠を超え、個人が真に尊重される、未来のあるべき姿だと考えています。

私(左)が12歳、妹(右)が10歳の時の写真。当時、私は天文・宇宙が好きで、妹はロケットが好きでした。妹が言うには、宇宙好きだったお姉ちゃんの影響でロケット好きになったそうです。

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