家族それぞれにとっての留学

館 明日香(スウェーデン・カロリンスカ医科大学 客員研究員)

「こっち来て手伝ってもらえるから楽になったわー家事育児」
主人がスウェーデンに来て数ヶ月して発した言葉です。
もともと日本でも私は大学で臨床と研究、主人はフルタイム勤務+家事・未就学児2人の育児(子どものお迎え以外ほぼ100%)という分担でした。いえ、分担できてないので正確には役割でした。子どもより早く家を出て皆が寝静まってから帰宅するのが日常、そこに週1-2回の当直がありました。大学には子育て中の先生も多く皆さん家庭と両立されています。しかし私は個人的理由(留学のための研究準備と資金稼ぎ)のためほぼ家にいない状態でした。主人もそれを理解してくれたのと、家事育児を外注するのも嫌という考えもあり全て自分でこなしてくれていました。
実は主人は時短勤務を申請するも「過去に部長の男性医師が時短勤務を取った前例がないため認められない」という理由で却下されています。そのため職場に無理を言って8:15-17時の勤務にしてもらい、その分昼休みを削って時間をやりくりしていたようです。(私はこちらに来てそれを初めて知りました)
ここで主人の日本での一日をご紹介します。
6時  起床 洗濯物干し、朝食作り
6時半 家族を起こす、朝食を食べさせる
7時  子ども達を保育園へ送って出勤
8時15分-17時 勤務
17時  職場からスーパーへ直行、買い物
17時半 帰宅と同時に夕飯準備
18時  子ども達帰宅(祖父母より)
18時半 子ども達と1度目の夕食
19時半 入浴
20時半 本の読み聞かせ、寝かしつけ
22-23時 私帰宅、2度目の夕食(2度の夕食習慣で主人はみるみる太りました)
23時 就寝
ここに月1-2回の緊急オペが入ります。私がいない場合は祖父母を召喚していました。きっとワーママと呼ばれる方々のスケジュールに近いのではないでしょうか。
収入は完全に主人の方が上です。逆だったら私は断固拒否しているのでよくやってくれていたなと思います。
ちなみにこちらで主人も同じラボに所属していますが、全く研究に興味がなく留学はキャリアに1ミリもプラスにならないそうです。こちらの方々には、主人は留学でなく強制連行と言われています。合掌。

「日本人の“できません”は信用するな」というジョークがあるそうです。ヨーロッパ圏の人と比べて日本人は英語が不得手です、でも重宝されるのはある程度無理な事もやってしまうからだと思います。それは日本で普通に働いている(長時間勤務、ある程度のクオリティがデフォルト)事がアドバンテージになっていると感じています。私はこちらでは8-16時しかラボに居られずそれ以外は自宅で研究していますがそれでも「明日香はラボで一番のハードワーカーだ」と言われます。朝5時に当日のプレゼン資料(前日の実験結果のまとめ)を送ったら「そんな時間に働かなくて良い!資料なくてもミーティングでみんなで考えれば良い!」と怒られました。もし日本でこの感覚で働いていたら、正直こちらで戦えなかったと思っています。
主人が時短勤務を拒否された様に日本でのキャリアと家庭の両立における問題は多々ありますが、それをやりくりした経験は留学に絶対に生きます。
両立していなかった私が言っても全く説得力はありませんが。。。

最後に主人に留学の感想を聞くと
「特に子どもたちとの時間は日本と変わらないけど、コロナでも子どもたちの生活が変わらなかったのはスウェーデンに来て良かった事かな。」
だそうです。この国にしておいて良かったなと思いました。

家族での留学は単身と比べて準備も多く正直大変です、でも何にも変え難い貴重な経験になると思います。
今はそのために必要な時間だと思って頑張って下さい。


ラボの仲間達とmidsummer(夏至祭)のピクニック


夏の間アパートの庭でほぼ毎週友達とバーベキューをしていたら「もうバーベキューは十分!」と主人(準備、焼き、片付け担当)に言われました。


夏は目の前の湖で、冬は近所でそり滑りやスケートで毎日のように遊んでいました。

館 明日香(スウェーデン・カロリンスカ医科大学 客員研究員)(2021年5月)

※日本学術振興会ストックホルム研究連絡センターHPには2020年に行われた館さんのインタビューも掲載していますので、併せてご覧ください。
https://www.jsps-sto.com/to-japanese-researchers/tachi-asuka/