家族帯同での在外研究
―英国における生活基盤の整備にあたって(前編)―
海部 健三(ロンドン動物学会 名誉保全フェロー(中央大学法学部 教授))
2020年度から2021年度まで、客員研究者として英国のロンドン動物学会(Zoological Society of London)でウナギの保全に関する研究をしています。2020年度は大学の在外研究制度、2021年度は科研費の国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(A))を利用しました。ロンドンへは妻と小学生の娘とともに赴任したので、小学校選び(前編)と住居の選択(後編)について、経験したことをお話しします。
~前編:小学校選びについて~
1. 候補となる小学校の検討について
英国で研究する機会を得たことに伴い、自分自身の仕事に関する準備と並行し、家族を帯同するため子どもの小学校探しも渡英1年前くらいから開始しました。なるべく多様な友人と出会ってほしいことと、家計の事情から、現地の公立小学校に通わせたいと思っていました。英国には日本のような指定教科書がなく、学校が教科書となる本を選ぶとのことです。また、公立でも学校ごとに教員を採用しており、学校間の格差が日本よりも大きくなる傾向があります。さらに一つ一つの学校の規模が小さく、狭い地域に多くの学校が存在するため、通わせる学校の選択は非常に重要な課題でした。この点についての調査と手続きは、ありがたいことに海外での居住経験が豊富で語学に不自由のない妻が担当してくれました。私の勤務地との関係から居住するエリアを絞り、付近の小学校をまとめて検索できる有料サービス(locrating.com)を使用して検討しました。このサイトはOfstedという英国の各教育機関の評価を行う監査機関による各校のデータにもリンクしており、そこに掲載されている調査レポートも活用しながら候補を8~9校に絞りました。
2. 候補小学校への問い合わせについて
その後、候補の小学校のホームページに掲載されているアドレス宛にメールでの問い合わせを行いました。日本とは違い英国の公立小学校には定員数があり、定員を満たすと新しい生徒は受け入れてもらえません。受け入れ可能な定員を超える申込者がある場合は、居住地と学校の距離など定められた基準に従って選抜するので、東京都心で経験した保育園探しに近いシステムと言えるでしょう。問い合わせた結果、数カ月後の渡英時に空きがあるかどうかはその時点では保証できないといった回答でした。当然の内容ではありますが、少しでも見通しを立てておくため、現在の生徒数や順番待ちをしている児童の有無、これまでの途中編入の実績数や学年ごとの教員数などを追加で質問しやり取りを続けました。これらの対応は、教員とは別に各校におられる入学手続き/渉外担当の方が担っていました。レスポンスの早さや回答内容にも、学校それぞれの個性が見えます。結果として、その中でも特に対応が迅速で、子どもの環境変化についても親身になって助言をしてくれた小学校にご縁があり入学することになりました。
3. 渡英後の入学手続きについて
通常、公立小学校の入学手続きは行政区(Council)に書類を提出して行います。我々はCOVIDの影響でビザ発給が予定より遅れ、新学期開始の直前に渡英することになってしまったため、学校側からも行政の担当部署に働きかけて可能な限り迅速に手続きを進めると言っていただきました。そのおかげで、新学期まで4営業日しかない中でも無事に手続きが済み、入国して10日後の新学期初日から子どもが小学校に通い始めることができました。子ども連れで海外に住む場合、学校選びは非常に重要な課題になると思います。英国の場合は選択肢も幅広く学校間の格差が大きいこと、定員制であることなど日本と異なる事情も多くなります。ウェブサイトでわかる内容の調査はもちろんですが、渡英前から小学校へ直接連絡してみるなどして、多角的に学校の特色を捉えることで判断軸が明確になりました。幸いにして子どもは毎日学校に通うことを楽しみにしており、私もその点について不安を感じることなく自分の仕事に注力できています。