家族帯同での在外研究
―英国における生活基盤の整備にあたって(後編)―
海部 健三(ロンドン動物学会 名誉保全フェロー(中央大学法学部 教授))
2020年度から2021年度まで、客員研究者として英国のロンドン動物学会(Zoological Society of London)でウナギの保全に関する研究をしています。2020年度は大学の在外研究制度、2021年度は科研費の国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(A))を利用しました。ロンドンへは妻と小学生の娘とともに赴任したので、小学校選び(前編) と住居の選択(後編)について、経験したことをお話しします。
~後編:住居探しとワークライフバランスについて~
1.小学生の子どもがいる場合の英国での住居探しについて
新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、当初の予定から半年ほど遅れて2020年7月中旬にビザが下り、8月下旬に渡英しました。ビザの取得後、子どもの小学校入学手続きと並行して住居探しを急ぎ進めました。英国内の住所が決まっていなければ、小学校の入学手続きを開始できないからです。結局、渡英直前に住居が決まり、契約書にサインしたのはロンドン行きのフライトの中でした。
住居を決めるにあたり、通常第一の条件となるのは必要経費でしょう。我々も同様で、まずは家賃の上限を決めました。次に大まかな居住地区を絞り込みました。勤務先であるZoological Society of Londonは大きな公園の中に立地しており、周囲の様子もある程度把握していたので、勤務先から徒歩圏内(40分以内)を第二の条件としました。
英国の公立小学校の場合、小学校と住居の近接が重要な入学選考基準の1つとみなされます。ただし、日本とは異なり、定員に空きがなければ例え小学校のすぐ近くに住んでいたとしても入学できません。このため入学を検討していた小学校に新学期の空席が出ることを確認してから、その小学校の0.3マイル圏内で住居を探しました。これが第三の条件となります。この条件の中で、「2階以上」「オートロック」や「ポーター常駐」など安全面の条件を加えると、選択肢はあまり多くありませんでした。良いと思う物件は競争率も高いため、オンライン内見で問題がなければすぐに意思決定して契約、という流れであったと記憶しています。
新型コロナウイルスの状況次第ではありますが、オンライン内見で現地の住居を探す方が今後増えるでしょう。オンライン内見の注意点として、実際よりも部屋がきれいに見えることがあると思います。また、内見に同行するエージェントが必ずしも問題のある部分を積極的に指摘してくれるとは限りません。実際、我々も入居してからカーテンやベッドの破損箇所を発見し、修理業者を呼ぶことになりました。オンライン内見で住居を決める場合にはあらかじめ確認する項目のリストを作ると思いますが、その際に現地で賃貸住宅に住んだ経験のある方から注意点をあらかじめ聞いておくとよいかもしれません。また、チェックするべき項目に関して事前にエージェントと話し合っておくことも重要でしょう。現地に知り合いがいて、オンライン内見に同席してもらえればさらに良いですが、やはり状況が許す場合は、現地で実際に内見するのがベストだと思います。
2.ワークライフバランスに対する考え方
子どもが生まれる前に教育・研究・大学運営に割いてきたエフォートを100とした場合、子どもが生まれた後もエフォート100のまま育児も両立させて、というのはまず無理です。特に子どもが小さい間は仕事に割くエフォートはどうしても80や90になりますし、生活を合わせれば、それまでとは比較にならない労力が必要になってきます。再生産という生物個体に訪れる最大のイベントなのですから、これは致し方ないことと捉えています。共働きの場合、家事分担は非常に重要なテーマになるでしょう。私は、夫婦で「平等」に家事を分担するよりも、結果としての不公平感が生じないことが重要と考えています。お互いの仕事の量も質も異なりますし、家事の得意不得意も異なります。このため場合によっては「量」を均一にしようとすることで、かえって不公平感が強くなる可能性も考えられます。お互いの繁忙期が違ったり出張で一方が家を空けることもありますので、私たちは夫婦のどちらかできる方が対応する、長期的なスパンで見たときに夫婦間のバランスが取れているとお互いが思えれば、それで良いというスタンスです。
現在は、妻が大家や学校など外部との連絡窓口、子どもの学習、情報収集などを担当してくれています。子どもの学習は、新型コロナウイルスの関係で自宅学習の重要性が増している状況の中、負担の大きな役割です。また、住み慣れない地域に住んでいると、ひったくりや住宅侵入の発生など近所の安全に関する情報や、その国・地域特有のルールを理解することが安全で快適な生活に直結するため、SNSや近所付き合いを通じて行われる情報収集も重要な家事のひとつです。新型コロナウイルスの影響下では、外出や他人との接触に関するルールが頻繁に変更されるので、これらの情報を常にアップデートしておくのも、主に妻の担当でした。私は主に炊事と洗い物などの台所仕事を担当し、掃除と洗濯は二人でやります。これらの「担当の家事」は完全に役割分担するのではなく、必要により互いに補助します。家族やパートナーシップのあり方は多様なので、このやり方が他の家庭でも効果的かどうかはわかりません。英国で知り合った方々を見ても、それぞれの家庭やパートナーシップにより落とし所は異なる、という印象を持っています。