家族とともにチャレンジした米国研究&育児生活

小林 勇輝
(日本学術振興会海外特別研究員1(2022年10月-2024年3月 アメリカン大学(ワシントンD.C.))
(現 情報通信研究機構(NICT)未来ICT研究所、脳情報通信融合研究センター(CiNet)有期研究員)


 海外特別研究員として、ご家族を帯同されて渡米後、アメリカン大学にて研究をされている小林 勇輝先生に海外特別研究員として過ごした2年間について、渡米を決意されたきっかけや、生活や研究環境、家族の同行、医療費など渡米中の幅広い経験について語っていただきました。
 また、小林先生はご多忙のなか、学振カフェ2や海外特別研究員同士の交流などにも熱心に関わっておられましたので、そのモチベーションについても伺いました。
 昨今、若手研究者の海外渡航やその待遇の改善が注目されていますが、その渦中にある方からの貴重な体験談です!


―最初に、海外特別研究員に応募され渡米しようと思ったきっかけや理由を教えてください。

 学生時代から何度か国際学会に参加する中で、十分に国際的な研究の輪に入れていないと感じていました。もちろん英語力の問題もあると思いますが、それだけでなく、海外の研究者と研究に関してコミュニケーションを取る経験一般が足りていないと思いました。そういった、言語の問題も含めコミュニケーションの方法を学び、国際的な議論をより価値のあるものにするために、海外で長期間滞在し、研究をしたいと思ったことが大きな理由です。

―最初からお子さんも含めて家族全員で渡米される予定だったのでしょうか。

 博士課程在学中に結婚しており、妻も休職という形でついてくることに同意してくれていたので、当初は二人での渡米を予定していました。海外特別研究員に何度か申請する間に子供ができまして、もちろん大変だということはわかっていたのですが、家族全員で渡航することに決めました。
 2年間ですし、色々な人に相談する中で自分自身の中で海外に行きたいという気持ちも高まっていましたので、私自身のわがままを通してもらったようなものですね。

―そうするとお子様はとても小さいときにこられたと思いますが、予防接種や健康診断など医療面など、アメリカに来られて大変だった思い出などありますか。

 もちろん渡航前にインターネットで調べていたのですが、最初は医療制度がよくわからず、苦労しましたね。いわゆるかかりつけ医の方にまずは診察してもらって、さらなる医療が必要な時にはそこから専門医を紹介してもらうという形式であることは知っていましたが、実際にどうやってかかりつけ医を探すのか、といったことや最初にどんなやり取りをするか戸惑いました。
 でも、自分の加入していた海外旅行保険が日本語対応の電話問合せ窓口を持っていて、そこで色々と医療制度を教えてもらえたのでとても助かりました。その保険のおかげで、医療に関して経済的に困ってしまうことも少なかったです。
 ただ、子どものお話ではないのですが、来たばかりのころに妻が歯の治療をしなければいけなくなったことがあり、歯科治療にはその保険が使えなかったので数千ドルかかってしまい、辛かったですね。                  

―それは大変でしたね。海外だと医療面の負担がもっとも大きかったのでしょうか。

 そうですね。学振カフェでもトピックになっていましたが、これも外国人だからこそ発生した負担なのかなと思います。アメリカで雇用されていれば、通常、勤めている企業や大学が加入する歯科保険に入れるので、このあたりはもっと充実しているはずです。短期滞在で、雇用関係がないとなるとどうしても歯科治療を自前の保険でカバーすることは難しいみたいです。もし歯科の大きな出費がなければほかに回せたのですが…(笑)
 また、自分に既往症があり薬を定期的に飲む必要があるのですが、既往症には海外旅行保険が使えなかったので、自己負担となって1年に400ドルくらい診察・薬代にかかりました。日本に住んでいた時は、アメリカでの既往症の診察にいくらかかるかとても不安だったのですが、400ドルくらいだったのでこれくらいならしょうがないかなと思いました。

―お子さんのお話に戻ると、離乳食などはどうしていたのでしょうか。

 こちらに来るタイミングですでに通常食に移行していたので、その点は助かりましたね。もちろん日本と手に入る食材が異なるので、子供が好きな野菜なんかを我慢させてしまったのは申し訳ないなと感じています。質も日本ほど良いものは買えなかったので、日本に帰ったら美味しい野菜を食べようねって言っていました。少し前に妻と子供だけ帰国したのですが、妻の実家の畑で遊んだり、好きな野菜をおいしそうに食べていたりする写真が送られてきて感動しました。

―他にはこちらで育児にかかる費用の負担感はどれくらいでしたか。

 予防接種、健康診断は保険がカバーしない範囲だったのでその点はある程度かかりましたね。ただ、たとえば健康診断は1回で100ドルくらいだったので、歯科治療に比べるとそれほどでもなかったように思います。
 デイケアについても結局使わなかったので、育児にものすごい費用が必要だったということは無かったですね。デイケアを使っていたら月額で1000ドルとか、もっとかかったりするのでもちろん大変だったかと思います。

―そうすると、他のお子さんと遊ばせる機会はどうやって見つけていましたか。

 DC周辺は日本人も多かったので、こちらに住んでいる日本人の方が開催しているプレイグループや、住んでいたカウンティが開いてくれる子どもの遊び場のようなものに参加させてもらっていました。
 このコミュニティなどの存在に気づくまで半年くらいかかったので、最初から知っていればなとは思いました。
 でも、こうやって遊ぶ機会を作ってはいたものの、日本に住んでいたころに比べて、同じ年くらいの子供とコミュニケーションをとる機会はやっぱり減っていたので、ちょっと引っ込み思案だったり、内弁慶になったりしているところはあるかなと思っています。
 アメリカだと街中ですれ違う方とかが子供に話しかけてくれたりするんですが、一歩下がっちゃうんですよね。もっと小さな子が陽気に対応していているのを見ると、アメリカに来ずに、日本でずっと保育園に通わせていた方がもっと社交的になったかなと思うことはあります。
 ただ、やっぱり子供の成長ってものすごく早くて、この1年半の間にいろんな成長があったので、この期間を離れて過ごしていたらと考えるときっと辛かっただろうなと思うので、わがままかもしれませんが、私自身の目線ではやっぱり家族みなで来られて良かったと思っています。

―アメリカの機関に所属されて、研究・家庭の両立という観点から日本とアメリカでここは違うな、ということはありますか?

 大学というわけではないですが、私が参加したある学会は毎年フロリダのリゾートホテルで開催していて、なんというか子供含めて家族を連れて参加することを推奨しているような雰囲気も感じました。
 なんていうかこれが良いことかっていうと定かではないのですが、日本にはあまりない面白い文化だと思います。

―ちなみに、お子さんの英語力は伸びたと感じましたか。

 いえ、全然ですね(笑)デイケアとかに行っていなかったということもあって学ぶことはほとんどなかったですけど、英語というものが存在することは理解してくれたみたいで、そこは一歩成長したかなと思っています。
 奥さんは郡がボランティアでやってくれている無料の英語クラスに週1回くらい参加してそれを1年以上続けていたので、頑張って英語を学ぼうとしてくれていましたね。

アメリカン大学内のカフェスペースでインタビューを実施。

―少し話題が変わりますが、子育てや研究にお忙しい中学振カフェについても主導されていましたが、どういったモチベーションが支えていらっしゃったのでしょうか?

 海外特別研究員1年目の時に第1回の学振カフェが開催され、伝えた意見も反映されて、一時金の支給を受けたのですが、そのときにこのような取り組みを継続していく必要があると感じました。
 第1回目の時は先輩の方に引っ張っていただいたのですが、こうした活動も引き継いでいき、制度がより良い方向に変わっていってほしいと思い第2回目の際にはとりまとめなどさせていただきました。自分ももうすぐ採用期間が終了してしまうので、改正された恩恵を受けることは無いしな、というのはもちろん思うこともありました。でもそうじゃなくて、こういった活動を通して未来の世代に向けて制度をよりよくする活動は続けて行かないといけないというところがモチベーションでしたね。こちらでの研究もある程度順調に進んで、採用期間終了までに思っていたことを達成できるめどが立ったのでエフォートを割けるということもありますけど。

―日本に帰った後、今回の経験を生かしたキャリアプランなどはお考えでしょうか?

 今後、子供も成長していく中でまた長期で海外というのは難しいところもあるのですが、こちらの研究環境はとてもよかったですし、ここで生活・研究をさせてもらううちに海外の大学で過ごすことの心的ハードルもかなり下がったと思うと、子供が独り立ちした後に海外に行く機会が得られればありがたいです。拠点を移すようなものではなく、サバティカルなどのチャンスがもしあるなら、半年から1年ぐらいの滞在とかはさせてもらえたら嬉しいです。
 国際学会でしっかりコミュニケーションを取れるようになるっていうことが、渡航の目標の一つだったので、定期的に国際学会にも参加していきたいと思っています。オンライン会議ツールなどで話すことももちろんできますし、メールなど文章上のやり取りも可能ですが、顔を合わせて接する機会は研究のためにも、英語のためにも大事だと思います。

―最後に、これから海外渡航を考えている方や渡航する前のご自身に向けて伝えたいことはありますか。

 まず、手放しに海外渡航を勧めるということはしたくないです。
 もちろん海外渡航には良い面もありますが、大変な面あります。例えば家庭の事情や、タイミングによっては日本でのポストを逃すことにもつながります。
 また、情報収集は大切ではあるものの、海外渡航を経験された方のお話をたくさん聞くと、渡航した方がいいと思い込んでしまうこともありますので、良い面も悪い面も含めて情報を収集した上で家庭やご自身の状況を冷静に検討してほしいですね。
 先にお話ししたように、私自身は今回の渡航は得難い経験をしたと感じていますが万人が同じように感じるとは限りませんので、しっかりと検討することが大事だと思います。

―確かにご自身の状況をしっかりと検討することは大切ですね。本日はありがとうございました!


  1. 研究課題名「群化の数理表現を用いた明度知覚の予測」 ↩︎
  2. 学振カフェは特別研究員・海外特別研究員採用者と文部科学省・日本学術振興会担当者との風通しのいい関係を築くために、2023年2月および2024年3月に採用者有志側主体で開かれたオンラインネットワーキングイベントの呼称。採用者と文部科学省・日本学術振興会担当者間で直接制度に関する意見交換を行った。 ↩︎