海外を調査フィールドとする研究+子育て
+ソーシャルアクション

安發 明子(立命館大学 博士後期課程、日本学術振興会特別研究員)


 日本で生活保護ワーカーをしながら毎年、海外で福祉の調査をしていました。13年前よりフランスを本拠地にし、子ども家庭福祉の研究をしています。フランスは大学院も不妊治療も無料なので、両方ともチャレンジし、大学院に合格した年に不妊治療も成功しました。修士1年の後半は医師により絶対安静の指示が出たので1人だけZoomで授業に参加させてもらい修了できました。2ヶ月間の夏休み中に出産し、学生は優先で保育を利用できるということで、子どもを預け大学院に戻りました。夫がホテルのレストラン勤務で土日、夜間、バカンス期間は不在であるため、SNSで子どもを預かってくれる人をみつけ、常に5人は確保して、やりくりをしました。1時間1600円くらいで頼むことができました。フランス国立社会科学高等研究院にて健康社会政策学と社会学2つの修士で学ぶ機会を無料で享受し、3年間の不妊治療を経て無料で子どもを授かり無料で出産し、移民にも平等の機会を与えるフランスに感謝しています。

 現在は日本学術振興会特別研究員DC2で博士課程にいます。DCに通算の海外渡航期間は採用期間の3分の2までとする規定があるので1、娘のバカンスの度に帰国し、一年で3往復するのに飛行機代が150万円、さらに滞在費がかかるため、財政的には苦しい暮らしになりました。しかし、娘を日本の小学校に通わせることができ、豊かな経験にもなりました。小学校入学前の6年間は日本で一時保育の受け入れが一度も叶わず、滞在先で都度ベビーシッターを探すのが大変でしたが、6歳からは小学校と学童保育に受け入れてもらえ、とても助かりました。ただ、日本では学会が週末にあるため、やはり子どもの預かりは行く先々で探します。フランス滞在中は、バカンス期間と国際学会の日程が合う場合に娘を1週間のキャンプに送り出し、国際学会に参加できるようになりました。

 海外を本拠地にしていると、日本の民間研究助成も面接や授与式に参加が求められるなど利用できないことが多いです。しかし、調査フィールドに継続的にいないと入ってこない情報があり、必要なタイミングにその場にいることで質のいいネットワークの確保ができると感じています。日本のニーズに応えた発信として何冊か本を出しているのでご紹介します。自己責任ではない社会のあり方についてフランスの福祉からヒントを集めた『一人ひとりに届ける福祉が支える フランスの子どもの育ちと家族』、親子まるごと支える在宅支援についてフランスのソーシャルワーカー専門誌に連載されている支援者が描いた漫画を翻訳し解説をつけた『ターラの夢見た家族生活』、子どもの権利が守られ気持ちよく生きられるための方法が描かれた絵本『NO!と言えるようになるための絵本』(2025年4月発売予定)などです。

 すべての子どもが幸せな子ども時代を過ごせる社会をつくることを目指して、これからも現地で調査と研究を続けられる道を模索します。
 活動についてはホームページをご覧ください:akikoawa.com


  1. 「日本学術振興会特別研究員遵守事項および諸手続の手引(令和6年度版)」より抜粋
    Ⅲ-9.採用期間中の海外渡航について
    (2)通算渡航期間の上限
    通算渡航期間の上限は、採用期間の2/3です。
    ただし、以下の海外渡航による渡航期間は、通算渡航期間から除外されます。
     ① 特別研究員-DCの「研究指導の委託」、「国際共同学位等の教育連携体制に基づくジョイン    
      ト・ディグリー、ダブル・ディグリー等」
     ② 渡航期間が28日未満の海外渡航 ↩︎