研究とライフイベントの両立に関する研究者へのインタビュー
(RPD経験者の声)

京都大学農学研究科研究員 永田 紅

【PROFILE】

  • 2001年~2004年 特別研究員 DC1採用。
  • 2004年 京都大学大学院農学研究科博士課程修了。京都大学博士(農学)。
  • 2004年~2006年 東京大学 研究拠点形成特任研究員(COE研究員)(大学院総合文化研究科)
  • 2006年~2008年 東京大学 学術研究支援員(大学院総合文化研究科)
  • 2008年~2013年 京都大学 物質-細胞統合システム拠点(WPI-iCeMS)特定研究員
  • 2013年~2016年 京都大学 物質-細胞統合システム拠点(WPI-iCeMS)特定拠点助教
    (この間、2013年に出産、2013年~2014年に約1年間の育児休業を取得後、復帰。)
  • 2017 年~2019年 特別研究員RPD採用、京都大学学際融合教育研究推進センター生理化学研究ユニット特任助教を務める。(※)
    現在は京都大学農学研究科、学際融合教育研究推進センター生理化学研究ユニットにて研究を継続。科研費(基盤研究(C) )等により膜タンパク質の機能等について研究を行っている。

(※)学振注:京都大学では所属部局により特別研究員- RPD に対し「特任助教」の称号が付与される場合があります。

昼は研究者、朝と夜は子育て、深夜は歌人

【永田 紅さんの一日を追う】

AM 8:30 朝、保育園へ長女を送り届ける

夫は東京で働いているため、ウイークデイは長女と2 人で実家へ移動し、父と過ごすことが多い。週末は夫が帰宅、3人で家族水入らずの生活を送る。通勤はクルマ。朝は長女を保育園へ送り届けた後、京都大学農学部キャンパスへ。

AM9:30 研究室で植田先生と打ち合わせ

植田和光京都大学教授の細胞生化学研究室に所属。受入研究者でもある植田先生との打ち合わせが欠かせない。研究内容に関する質疑、実験結果の報告、スケジュールの確認など内容は濃い。生命科学は世界的に新発見が相次ぐ分野。アンテナを張り巡らせる必要がある。

AM 11:30 実験に取り組む

実験室ではクリーンベンチ(微生物の混入などを避けるための装置)や共焦点蛍光顕微鏡などの機械・設備を活用しながら、仮説の検証に取り組む。GFP(緑色蛍光タンパク質)を使ってABC タンパク質を光らせているが、うまく発現しないのが悩みのタネ。

PM3:00 論文抄読会に出席

細胞生化学研究室では植田先生も出席し、毎週論文抄読会(※)を実施している。研究室の所属メンバーが論文の要旨や図表を解説し、それに対し、活発な質疑応答が行われる。

PM6:00 保育園へお迎えに行き、帰宅

夕刻、山の中腹にある保育園へ移動、長女を引き取り、帰宅。買い物、夕食の準備、夕食、洗濯、長女に絵本の読み聞かせ、入浴など帰宅後もあわただしい。理系研究者は深夜まで実験室に残るケースも少なくないが、子育て中の研究者には至難のわざ。効率的な時間の使い方が共通した課題だ。実験のデータ処理、参考文献読みなど、家で出来る仕事は持ち帰る。

AM 1:00 歌人としての時間

長女を寝かしつけた深夜が歌人としての時間。パソコンの前に座ると歌人としての顔が現われる。研究と歌人の両立は難しく思うが、「不十分なところはいっぱいあるが、できるうちは続けたい。2つの世界を持っていることで、ものごとを見るときに何か余裕が持てる」と視野の広さにつながっているよう。研究が歌の題材となるときもある。
RPD の“R”は何かと問われたり
葉洩れ日の下の Restart なり

受入研究者からひとこと

植田和光 京都大学教授

私どもの研究室では健康な体を守る「しくみ」を明らかにするため、有害物質を体外へ排出するABC タンパク質の分子メカニズム、脂質恒常性維持に関与するABC タンパク質の分子メカニズムなどを解明し、それらの生理的な役割と遺伝病、生活習慣病、がんとの関係を探っています。数年先には、こうした病気の治癒につながるような研究成果を生み出したいと考えています。

永田さんは小さなお子さんを抱え、子育てに時間をとられながら、ほぼ予定したスケジュール通りに研究を進められています。できる範囲で、できる限りのことをなさっている。その努力に頭が下がりますし、永田さんのような子育てに追われる若い研究者を支援する特別研究員- RPD 制度に心から御礼を申し上げたいと思います。

(※本記事は「特別研究員-RPD制度」10年史(平成30年7月独立行政法人日本学術振興会発行)の記事を再構成したものです)

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